東大卒医師が教える科学的「株」投資術を紹介したいと思います。これは久々となった書籍紹介の第五回目です。
"機械的に"投資の意思決定をすることで、市場平均より大きなリターンを得られる可能性が高いことを丁寧に説明した、数少ない本だと思います。


  • 概要
とても素晴らしい良書ですが、絶版のため入手困難になりつつあり、中古価格は定価より高くなっているようです。著者のKAPPA氏は現在はブログ『医学と投資についての随想』を執筆しておられます。


KAPPA氏は、テクニカル分析を否定し、ファンダメンタル分析も報われない努力だと言います。これらは以前私が紹介した、敗者のゲームまぐれを読んでも納得できることだと思います。

ではパッシブ運用をすべきという話なのかというとそうではなく、KAPPA氏はパッシブ運用については、負けないゲームではあるが決して勝者にはなれないと主張しています。明らかに市場は効率的ではなく、アノマリーが存在するためインデックスファンドやETFに投資する気になれないとのこと。著者が提唱する方法で市場に勝てるというのですが、その方法がEBI(Evidence-based Investment )です。


EBIとは具体的には低PER戦略、低PBR戦略など有名なバリュー系ファクターによる投資法や、財務、収益性ファクターやそれら複数のファクターを組み合わせる戦略などです。多くの投資本で言及されていることばかりではありますが、比較的薄い一冊の本に、根拠となる文献とともに図や表で分かりやすくまとまっているという点が非常に貴重だと思います。


  • 本当に有効な投資法なのか?

過去の統計的事実から未来を予測するのは、いつも正しいとは言い切れません。しかし、この本で紹介されているエビデンスは、人間の本質に深く関わっていることが示唆されていますので、未来においても有効である可能性が非常に高いと思われます。


この本を読むと、投資家が人間の心理について学ぶことの大切さを痛感します。EBIの手法を信じて投資するのであれば、他人の心理など考えず、もちろん自分の心理も無視して機械的に行動することになりますから、心理について学ぶ必要はないのかも知れませんが…。とはいえ、エビデンス自体が、人間が陥りやすい行動パターンから生まれているアノマリーですから、間接的に心理学の成果を利用していることになります。


この本で紹介されているようなアノマリーは昔から指摘されてきたものも多くあるにも関わらず、今日でも有効のようです。アノマリーというものは、それが知れ渡ると効果がなくなるはずです。それは、みんながその手法を使いだすと、当該銘柄の株価が騰がってしまいリターンが打ち消されるからですが、こういう本が絶版になるような世の中ですから、安心してエビデンスとして使って大丈夫だと思います。

だから、今のところは、エビデンスに基づいて投資すれば、だれでも簡単に超過リターンを上げられると言えそうです。実際に、KAPPA氏は次のように書いています。

このことは、他の機械的銘柄選択法すべてに当てはまるでしょう。多くの投資家が1年以上の単位で投資を考えないからこそ、機械的銘柄選択法は今後も有効であり続ける可能性がきわめて高いのです。 


  • お気に入りの部分

私がこの本で気に入っている部分は第五章業績予想のエビデンスです。その中に、ファンダメンタル分析はプロの力を利用する、とあります。これは、業績予想の数字を鵜呑みにするのではなく、投資家の反応を予想するというものです。PERや時価総額で銘柄を分類し、業績予想の修正があったときの株価の反応について示したグラフは必見です。低PERの銘柄は業績予想が修正されても株価が反応しにくい、というのは実感として持っていました。それはどうやら本当のようです。上方修正であってもすぐには株価が騰がってくれないということですが、かなり長期にわたってプラスの超過利益を出すという傾向が示されています。


低PER銘柄は、業績予想修正があっても株価の反応が鈍い。ということは下方修正が発表されても逃げるのが簡単です。また上方修正で株価に反応がなくても、サラリーマン投資家なら、気長にひたすら待つ戦法が使えます。(これは短期で結果を求められる機関投資家には難しい)
低PER戦略というものは、まさにサラリーマンに向いた投資法と言えるでしょう。


ある企業が素晴らしい業績をあげるかどうかを分析する力が高いだけでは、投資で大成功するのは難しいのではないでしょうか。本当に重要なのは、実力に対してどの程度評価されているかを見抜く力だと私は思っています。また、市場から無視された銘柄を中心に狙っていくのが、労力の割にリターンが大きい方法だとも思っています。これらの考え方はこの第5章を読んでよりはっきりしたものになりました。


  • 所感
すでに述べたように、この本は非常に素晴らしい本であることは疑いの余地がありません。あえて批判的な意見を言うとすれば、売却のタイミングに関しての記述が曖昧な印象を受けました。最後は自分で考えるべきということでしょうか。また、必ずしも割高ではないが、ポジションが大きくなりすぎたとき売却を検討するとありますが、これには疑問符がつきます。分散投資を勧めている文章において、無理にそれほど割安でない銘柄を組み入れるのは避けるべきで、手段と目的を混同しないようにしましょうと書いてあるので、少し矛盾があるとも言えなくはないと思います。


最近書店では投資本コーナーが拡大傾向にありますが、近所のブックオフでは、投資本のコーナーが縮小していることに気づきました。投資本の需要が拡大し、中古本は供給不足にあるようです。個人投資家の保有する投資本数が急増している証拠ではないでしょうか。私も負けじとこれからもたくさん本を読みたいと思います。